尾崎将寛さん
人が集まる店づくりから地域商社の設立に至る、おやきやTOTTEの店長・尾崎将寛さんの想いとは
- インタビュアー
- 地域包括ケア研究所 藤井 雅巳
ほんべつ(本別)町で、人を惹きつける居心地のよいおやき屋TOTTEを営んでいる尾崎さん。東京の大手企業で働いていた尾崎さんが、祖母の介護をきっかけにほんべつ町に移住し、自然と地域に溶け込み、地域の集いの場から地域の魅力を発信する地域商社を設立するに至った想いを語っていただきました。
尾崎 将寛(おざき まさひろ)
1985年、更別村生まれ。東京の大手企業で営業をしていたが、26歳のときにほんべつ町に住む祖母の介護のために移住。おやき屋TOTTEを開店し、いまや地域で一番若者たちが集まるHOTスポットに。おやき屋TOTTE店長、三ツ町商会合同会社取締役。
祖母の介護をきっかけに移住し、おやき屋TOTTEを開店
-尾崎さんは、どういうきっかけでTOTTEをはじめたのでしょうか?
尾崎さん(以下、尾崎): もともとは東京の大手企業で営業してサラリーマンを2年ほどしていたのですが、友人と帯広でカフェを一緒に出すことになって、その時に十勝へ。その後、今から7年前の26歳の時に、ほんべつに住んでいた祖母が要介護状態なってほんべつに移住してきました。帯広にお店を開くときもそうでしたが、ほんべつでこのお店を始める時もあまり不安はありませんでした。
-ほんべつ町で二次会といえば「TOTTEで」で、僕もはよく利用させていただきますが、ほんべつ町で一番の集いの場になっていますよね。
尾崎: 昨日も帯広でお店を出していた時のお客さんが来てくれましたが、そういったお客さんのサポートもあって成り立っているし、そういう関係性が楽しいですね。
-TOTTEといえば、”おやき”ですが、どんなところにこだわっていますか?
尾崎: 店で取り扱う商品は十勝産にこだわっています。バターや卵もそうですが、素材がすごくいいので美味しいんですよ。おやき以外にも、喫茶タイムはおいしいラテやショコラなども提供していますし、バータイムに提供できるお酒の種類も充実しています。
”地域を残すこと”に価値を置いた、三ツ町商会の設立。
-尾崎さんは、三ツ町商会の取締役もされていますが、具体的にはどんなことをやっているのでしょうか?
尾崎: 三ツ町商会は、本別・足寄・陸別の3町合同で設立した地域商社です。この地域を残すことが価値であるとして、国の地方創生事業として補助金ももらって活動をしています。
まずは、クラフトビール“ミツマチクラフト”を造り始めました。クラフトビールを作るにあたっては、この地域であることのストーリーにこだわっています。
本別・足寄・陸別は以前から林業の町なのですが、このあたりの林業の世界で一番大事にされていない木が「エゾヤマザクラ」です。曲がるので木材にならないし、間伐していくうえでは一番の邪魔になる。
そんな「エゾヤマザクラ」を、ビールに入れてみてはどうだろうと思いました。ウッドコンディショニングビールといって、本来なら木の樽に入れるべきだった木片をビールにつけるという技法があるのですが、それをやったらいんじゃないかと。日本には一つもないのですが、海外ではいくつかあったので、製材業者さんから木を譲ってもらい、醸造家さんには「この木にあったビールを作ってください」と依頼しました。
-それを聞くと、急にこのビールのストーリーが浮かび上がってきます。このストーリーを聞きにくるだけでもこの店に来る価値がありますね。
尾崎: ミツマチクラフトは実際に飲んでいただくところまでを含めてプロデュースしています。同じビールを飲むにしても、グラスがあった方がいいよねって、そのボトルとグラスは僕がデザインしたんです。
-グラスもかっこいいので、普通のグラスで飲むのとは全然違いますよね。デザインにそのストーリーがにじみ出ています。
尾崎: “デザイン物”って大事ですよね。僕は、そのために最大限の機材を準備しているし、そこにしっかりと対価が発生して、それが仕事になるということもこの地域の子供たちに示していきたいんですよね。
例えば、簡単なポスターなどを作ったときにも、そこに「普通にお金が回るよね」というような仕組みとか。
-デザインって、たぶん、基礎的な条件になってきますよね。それに、デザインに価値が見いだされることになると、そこにお金が回って仕事となって地域の中で循環する仕組みになる。
尾崎: 田舎にいるとチラシとかにお金払うって感覚がないんです。でも、ただでやってくれって言われても、誰も真剣に取り組まないですよね。それだと産業として育たない。三ツ町商会は、こんな課題にも向き合っていけるといいかなと思っています。
釣りのメッカ・ほんべつ。森羅万象を肌で感じる。
-尾崎さんから見て、ほんべつ町とはどんな町ですか?
尾崎: 僕は、週4、5日のペースで5時に起きて釣りに行くんですけど、ほんべつって、十勝のなかでも川釣りをする釣り人からめちゃくちゃうらやましがられる場所なんです。ニジマスやアメマスなどのネイティブトラウトがいて、本州だと体長が30cmぐらいなのですが、北海道のこの辺だと40~60cmの大きさなんです。そんな魚が釣れる場所がこの近くにはたくさんあります。
-それほど違うものなのですね。釣りの魅力とは何なのでしょうか?
尾崎: はじめは僕だけ釣れなかったんですよね(笑)。だから、はまったんです。どうしたら釣れるのかという探究心を持ちました。釣りの師匠からは、“森羅万象を知る”こと、考えることが大切だとを教わりました。
例えば、今日はどんな天気で、水温はどのくらいで、どんな水の流れで、どこに流れ着きやすいのか。自分が魚だったらどこにいたいかというようなことを考える。フライフィッシングなので、餌となる虫のことも季節ごとに考えています。
釣りって、体調や自分のテンションによっても結果が明白に変わります。激しい音楽を聴いたりすると自分の気持ちが高揚して、自分のテンションが森羅万象の中にマッチしなくなるとか、奥深いです。
-ものごとの本質を見極める人って、別分野の人たちと意気投合することってありますよね。それがデザインや、三ツ町商会のような地域商社への関わりにも現れていますよね。