本別高校 近藤浩文校長
まちと学校と生徒と、三位一体で取り組む、本別高校コミュニティスクールへの道。近藤浩文校長の見据える未来。
- インタビュアー
- 地域包括ケア研究所 藤井 雅巳
道立・本別高校に赴任した近藤浩文校長先生は、町内のイベントでの理科実験教室での手ごたえをもとに「本別理科教育プロジェクト(HoseP)」を立ち上げました。ほんべつらしい高校教育の在り方が作れるはずと、地域が一体となって教育に参加していくコミュニティスクールづくりに奔走しています。そんな近藤先生の素顔に迫ります。
近藤 浩文(こんどう ひろぶみ)
北海道出身。大学卒業後、教職の免許をとり高等学校の教員に。北海道内の道立の高等学校を歴任し、2018年度から十勝・ほんべつ町の校長として赴任。子供たちに向けた理科実験教室をしたり、「本別理科教科プロジェクト(HoseP)」を立ち上げたり精力的に地域の教育水準の向上に尽力している。専門は理科。道立本別高等学校校長。
本別理科教育プロジェクト(HoseP)の立ち上げのために考えていること
-近藤先生がほんべつ(本別)に着任されたのはいつでしょうか?
近藤さん(以下、近藤): 昨年度です。まずは自分自身が町を知ろうと思い、色んなイベントに参加しました。去年は子供たち対象の理科実験教室を4つやり、生徒にもアシスタントとして手伝ってもらいました。
理科実験教室をやると、小さなお子さんから保護者まで、ひっきりなしに来てくれました。みなさんすごく関心があって、「これは私がいる間だけで終わるのではなく、継続的・持続的に続く仕組みにしたい」と考えました。
-具体的にどのような仕組みを作るのですか?
近藤: 生徒たちに前面に出てもらって、町の中で高校生と中学生と、地域の大人たちが関りあえる仕組みを作ろうと、「本別理科教育プロジェクト(HoseP)」を立ち上げました。これには3つの柱があります。
1つは小中高の新しい学習指導要領に向けた、学習プログラムの開発です。理科教育センターや教育大の先生方にも参加してもらって、小中高の先生が助言しあいながらやる形式を考えています。
2つ目は、ほんべつ独自の教材づくりです。新しい学習指導要領は観察実験が重要視されますが、腹式で2つの学年を同時に教える先生が実験も準備もしてだと、相当大変です。それをサポートするために教材を作り、どの小学校でも使えるようにしていきます。
3つ目は、中高生が小学生に理科実験をするというものです。
これが3本柱ですが、これをやると3つが有機的につながっていいものが出来るかなと思っています。ほんべつからスタートして、全国にも発信します。
-お話を伺っていて、先生が一番興奮しながら取り組まれていますよね(笑)
近藤: みんながwin-winの関係の中でほんべつの理科教育を引っ張っていければいいなと思っています。ここにはいっぱい自然素材があって、理科教育を行うフィールドとしてとても魅力的です。
さらに、一つのプロジェクトが様々な人の研究テーマにもなったり、学校や教育現場にとってもサポートになる。それぞれ関わる先生が工夫して動いてくれてるので、これからとても期待できますね。
教員になった想い。一つの「出会い」が背中を押してくれた。
-それだけの動きを企画していくと、色々な人を巻き込まないと出来ないと思うのですが、先生のエネルギーはどこから来るのですか?
近藤: 私にはあんまりエネルギーはないんですよ(笑)。昔からの仲間なんですよね、教育大の先生は昔の同僚だったり。そういった人とのつながりがあって今やれています。
-つながりを大切にしてこられた先生が教職になろうと思ったきっかけは何ですか?
近藤: 大学に入った時は学校の教員になりたいとは思っていなかったんですけど、下宿の仲間と養護施設のボランティアサークルに入ったことがきっかけです。
中学生に毎週1回勉強を教えたり、小学生は小さい子と一緒に遊んだり、行事の手伝いをしていました。
私が担当したある中学3年生の子から、自分は高校に進学しないで東京で寿司職人を目指すんだけど、「先生は大学卒業した後、何になるの?」と聞かれて、「まだ決めてないんだ」と言ったら、彼が「学校の先生に向いてる」と思うよと。「学校の先生になって修学旅行で東京にきた時に、俺のすし屋に食べに来てくれよ」って、それがきっかけなんです。自分の中でも先生をやろうかなという気持ちはあったと思うんですけど、彼の一言が背中を押してくれて、私に35年間教員をやらせたんですよね。
人との出会いは不思議なもので、だからこそ、生徒たちには色んな活動をして、色んな人と出会って、勉強する事が大事だと話すんですよね。
-映画みたいなストーリーですね!でも、そんな出会いが今の先生を突き動かしているのですね。
教育熱心な町・ほんべつ。「町・教員・生徒」の3つがそろっている。
-先生から見られて、ほんべつはどんな町ですか?
近藤: ほんべつは、みなさんが教育に熱心ですね。小中学生もしっかりしています。最初にほんべつ町に来た時に、町を歩いてたら小さい子が「こんにちは~!」って、知らないおじさんおばさんにも、ちゃんと挨拶してくれるんですよね。それには家内とびっくりしました。それがこの町の全体の雰囲気なんですよね。
-それは、本当にそのように思います。僕も子どもたちの挨拶にはびっくりしました。
近藤: 精神面でも経済面でも町が学校を応援してくれています。町が学校の力にもなってくれるし、今の本別高校は生徒にとっても教員にとっても良いですよ。三拍子揃っているから、「これは何かが出来るチャンスだな」と。
どこの子も同じだと思うけど、この年頃の子供たちは悩みも多いし、色んな激しい感情もあって苦しい状況だと思うけど、その中でも本校の生徒たちは本当に元気で明るく素直、すくすくと成長していて、人の話をきちっと聞ける、挨拶が出来る。繕っているわけではなく、本当に真剣に人の話を聞けるんですよね。
-先日Webメディア作りのインターンをさせていただきましたが、そのときに同じことを感じました。
近藤: 外部から来た講師にも驚かれます。この子たちには、もっと色々な体験をしてもらって可能性を伸ばしていきたいなと。「生徒・教師・町」と三拍子揃っているこの町だからこそ、学校でも生徒を育てるけど、町と連携して教師と同じ目線で生徒を育てる、そういう教育環境がここでは出来るんじゃないかと思っています。
-町が生徒を育てるという観点ですが、先生が来られてからかなり地域のイベントや地域目線をもった取り組みをされている印象があります。
近藤: 国も『地方創生』と言ってますけど、これからは、子供たちが自分の故郷の事を真剣に考えて、その中から学んでいくことが必要です。自分たちの身近な素材を使って、それを自分事としてとらえて学んでいくこと。藤井さんたちがやっている地域活性化の取り組みも、決して高校の授業では教えることができないので、このような活動にも全力で関わってもらいたいと考えています。
地域で支えていく高校教育の在り方。すべての生徒の進路をかなえるためには。
-これからの本別高校でしていきたいなどはありますか?
近藤: 町と連携しながら、もっと地域とつながった学校づくりをしていきたいと考えています。今回の学校外のイベントを足がかりとして、将来的には地域が一体となって学校運営に関わっていく『コミュニティースクール』にしたいです。北海道だと高校は13校ぐらい取り組んでいます。
-地域が一体となって学校運営に関わっていくとどんな良いことがあるのでしょうか。
近藤: 生徒が高校生活で学ぶべきことは、とても学校の中だけで教えられるものではありません。むしろ、地域で学ぶこともたくさんある。例えば、化学実験の授業や今年試験的に行う高校生主体の「地元素材を使ったカレー作り」などもそうです。
学校教育で求められているものはどんどんと高度化する一方で、教員のやるべきこともどんどん増えてしまっている。
本校の先生は、「アクティブラーニング」という生徒に考えさせる授業を導入しています。授業の目的や目標を生徒と教員が共有しながら、何をどの程度まで到達すればいいのかを明らかにしながら、授業を進めるためのルーブリックの開発も行っています。国の言う「考える力」を身に付けさせるための具体的な取り組みをはじめています。
本来教員が取り組むべき教育に集中する為には、もっと地域社会全体で学校教育に参加していくような、そんな学校づくりが必要なんですよね。これは、ほんべつだから出来ると思っています。
-地域ももっと自分たちの社会の未来を作る教育に参加することが必要ですね。
近藤: 今年は総合学習の中で、地域課題を考えることをテーマにする予定ですが、町の若い人たちと生徒たちが一緒に討論する場を作ってみたり、一緒にグループワークをやりたいと考えています。子供たちももとても勉強になるし、逆に高校生が一生懸命動くと、相乗効果で町の方々も活性化していくと思います。
-高校生は発想も柔軟だし、高校生が真剣に取り組んでいたら大人がやらないわけにはいかないですね(笑)
近藤: 形式的なコミュニティスクールだったらやる意味がないし、教員の負担が重くなるようなものでもやる意味がない。ほんべつ町独自の形を目指していけるのではないかと思います。本校の先生方は、生徒のためだといくらでも仕事をしちゃうんですよね。
本校に入る生徒には、色んな進路希望の子がいます。私たちの使命は、その子たちの進路を全てかなえてあげられる教育環境を作ることだと思っています。その為にも、町の協力や地域が一体になっていく学校運営が必要ではないかと思います。
-本日は貴重なお時間をありがとうございました。これからの本気の本校(本別高校)に、ますます期待しています。